コラム 39: トピックの「は」(理論的に正しい英語に訳す)
街角でこんな貼り紙を見かけました。
「当店はリサイクル品ではございません」は、何の変哲もない普通の日本語です。しかし、英語的な発想で「当店」を主語だと捉えると、非理論的なとんでもない文章ということになってしまいます。
日本人の多くは、「〜は」は主語を表すと思っています。しかし、外国人が日本語を学ぶ際は、これを主語を表す助詞ではなく、トピックの「は」として教えられるそうです。つまり、「〜は」は、これから話す内容、つまり話題を示す助詞であるということです。たとえば、「象は鼻が長い」は、「象について言えば、鼻が長い」ということになります。したがって、「〜は」の部分を主語と捉え、それをそのまま英語に訳してしまうと、非論理的な妙な英文になってしまうことがあります。
「当店はリサイクル品ではございません」も、ちゃんと意味が通じる普通の日本語であり、それほどおかしいとも感じません。トピックの「は」式に書くなら、「当店について言えば、商品はリサイクル品ではありません」となります。しかし、「当店」を主語と捉えて、この構文をそのまま英語に置き換えてしまうと、「We are not a recycled product」(当店 ≠ リサイクル品)となり、妙なことになってしまいます。英語として理論的な文章にするには、この日本語を以下のように書き換えて訳す必要があります。
あるテレビ番組のインタビューで野球少年が、「ポジションは、ショートを守っています」と答えていました。トピックの「は」方式で書くならば、「ポジションについては、(僕は)ショートを守っています」となります。これもポジションを主語と捉えて、そのまま英語にすると非論理的な文章になってしまいます(ポジション = 守っている)。論理的な英語に訳すには、以下のように書き換える必要があります。
以上の例については、理論的に正しい英語に訳すのはそれほど困難ではないと思いますが、実際の翻訳では、もっと複雑で難解なトピックの「は」が頻出します。正しい英語に訳すには、情報を整理し、理論的に正しい文章に組み立て直す必要があり、頭を抱えてしまうことも多々あります。たとえば、以下のような文章です。
日本語原文:
A や B のコストは、製造に手間を掛けずに均一な製品ができるため、流通コストに比較して、安価で製造が可能である。
これは、技術者にありがちな悪文ですが、日本語として単独で読む限りは十分に意味が通じます。しかし、いざ英語にしようとするとかなり工夫が必要です。英訳すると、以下のような感じになるでしょうか。
英訳例 1:
The manufacturing costs of A and B are low compared with distribution costs, because you can produce them uniformly without extra effort.
翻訳例 2:
A and B can be manufactured at low costs compared with distribution costs because you can produce them uniformly without extra effort.
日本語の「は」を主語と捉えてそのまま訳すと、英語としては非論理的な文章になることがあると何度も書きました。しかし、一見非論理的に見える日本語は、裏返しに言うと、きわめて柔軟性が高いと考えることもできます。英語を日本語に訳したときに、どうもしっくり来ない訳文になってしまう場合は、英語の理論性が全面に出た、日本語らしくない日本語になっていることが原因の場合もあります。場合によっては、「僕はナポリタン」や「私はコーヒー」のような、一見非論理的な日本語的な構文をあえて採用することによって、読みやすい自然な日本語になる場合があるかもしれません。
カテゴリー: 2. 英語と日本語の違い
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「当店はリサイクル品ではございません」は、何の変哲もない普通の日本語です。しかし、英語的な発想で「当店」を主語だと捉えると、非理論的なとんでもない文章ということになってしまいます。
日本人の多くは、「〜は」は主語を表すと思っています。しかし、外国人が日本語を学ぶ際は、これを主語を表す助詞ではなく、トピックの「は」として教えられるそうです。つまり、「〜は」は、これから話す内容、つまり話題を示す助詞であるということです。たとえば、「象は鼻が長い」は、「象について言えば、鼻が長い」ということになります。したがって、「〜は」の部分を主語と捉え、それをそのまま英語に訳してしまうと、非論理的な妙な英文になってしまうことがあります。
「当店はリサイクル品ではございません」も、ちゃんと意味が通じる普通の日本語であり、それほどおかしいとも感じません。トピックの「は」式に書くなら、「当店について言えば、商品はリサイクル品ではありません」となります。しかし、「当店」を主語と捉えて、この構文をそのまま英語に置き換えてしまうと、「We are not a recycled product」(当店 ≠ リサイクル品)となり、妙なことになってしまいます。英語として理論的な文章にするには、この日本語を以下のように書き換えて訳す必要があります。
- 当店はリサイクルショップではありません(英訳例: We are not a recycled-goods shop.)
- 当店の商品はリサイクル品ではありません (英訳例: Our products are not recycled ones.)
あるテレビ番組のインタビューで野球少年が、「ポジションは、ショートを守っています」と答えていました。トピックの「は」方式で書くならば、「ポジションについては、(僕は)ショートを守っています」となります。これもポジションを主語と捉えて、そのまま英語にすると非論理的な文章になってしまいます(ポジション = 守っている)。論理的な英語に訳すには、以下のように書き換える必要があります。
- ポジションはショートです(英訳例: My position is shortstop.)
- (僕は)ショートを守っています(英訳例: I am a shortstop.)
以上の例については、理論的に正しい英語に訳すのはそれほど困難ではないと思いますが、実際の翻訳では、もっと複雑で難解なトピックの「は」が頻出します。正しい英語に訳すには、情報を整理し、理論的に正しい文章に組み立て直す必要があり、頭を抱えてしまうことも多々あります。たとえば、以下のような文章です。
日本語原文:
A や B のコストは、製造に手間を掛けずに均一な製品ができるため、流通コストに比較して、安価で製造が可能である。
これは、技術者にありがちな悪文ですが、日本語として単独で読む限りは十分に意味が通じます。しかし、いざ英語にしようとするとかなり工夫が必要です。英訳すると、以下のような感じになるでしょうか。
英訳例 1:
The manufacturing costs of A and B are low compared with distribution costs, because you can produce them uniformly without extra effort.
翻訳例 2:
A and B can be manufactured at low costs compared with distribution costs because you can produce them uniformly without extra effort.
日本語の「は」を主語と捉えてそのまま訳すと、英語としては非論理的な文章になることがあると何度も書きました。しかし、一見非論理的に見える日本語は、裏返しに言うと、きわめて柔軟性が高いと考えることもできます。英語を日本語に訳したときに、どうもしっくり来ない訳文になってしまう場合は、英語の理論性が全面に出た、日本語らしくない日本語になっていることが原因の場合もあります。場合によっては、「僕はナポリタン」や「私はコーヒー」のような、一見非論理的な日本語的な構文をあえて採用することによって、読みやすい自然な日本語になる場合があるかもしれません。
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