コラム 43: 比較級の訳し方にバリエーションを
比較級は、通常 2 つ以上のものを比較する際に使用します。A is larger than B. といった文章であれば、「A は B よりも大きい」などと訳しておけば、特に問題はないでしょう。ところが、実際の英文では、比較対象が示されていない、つまり「than B」が示されていない比較級が使われることが多々あります。たとえば、以下のような英文です。
例 1:
原文: This solution provides a more energy-efficeint system.
よく見かける訳文: このソリューションによって、よりエネルギー効率が高いシステムが実現します。
例 2:
原文: Our produducts can be installed at lower costs and in shorter periods of time.
よく見かける訳文: 当社の製品は、より低コスト、より短時間で設置できます。
英文に比較級が出てくると機械的に「より〜(な)」と訳す翻訳者は少なくありません。もちろん、「より〜(な)」は、立派な日本語であり、ことさら不自然だというわけではありません。しかし、別の訳し方を覚えることによって、表現の幅が広がり、文脈に応じた自然な日本語に訳せるようになります。
まずは、原文に隠された「than B」を表に出してやる方法を紹介します。英文であえて記述されていないということは、それほど重要な情報ではないのですが(自明の情報なのですが)、日本語ではこれを表に出してやるほうが自然な文章になる場合があります。「than B」として、暗に「従来よりも」や「他社製品よりも」などが内包されているケースが多いのですが、文脈によっては、それ以外の比較対象が隠れている場合もあります。
例 1:
原文: This solution provides a more energy-efficeint system.
訳例: このソリューションによって、従来よりもエネルギー効率が高いシステムが実現します。
例 2:
原文: Our produducts can be installed at lower costs and in shorter periods of time.
訳例: 当社の製品は、他社製品よりも低コスト、短時間で設置できます。
次に、比較級を動的に訳す方法を紹介します。比較級を常に「より(も)〜(な)」と静的に訳すのではなく、動的に訳してやると表現の幅が広がり、文脈によってはより自然な日本語になるケースもあります。つまり、「対象となる状態や性質が〜する」という捉え方をしてみるということです。「〜する」の部分には、文脈に応じた適切な日本語を見つけ出す必要があります。たとえば、比較級が修飾する語句が、効率、精度(正確性)、性能、能力などの場合は、「向上する」という表現が使えます。
例 1:
原文: This solution provides a more energy-efficeint system.
訳例: このソリューションによって、システムのエネルギー効率が向上します。
例 2:
原文: Our produducts can be installed at lower costs and in shorter periods of time.
訳例: 当社の製品では、設置コストが低減するだけでなく、設置時間も短縮されます。
例 3:
原文: This option ensures more accurate data collection.
訳例: このオプションを利用すると、データの収集精度が確実に向上します。
例 4:
原文: The placement accuracy in this case is more critical.
訳例: このケースでは、配置精度の重要性が増します。
例 5:
原文: The new-model car is equipped with additional features to achieve hihger fuel efficiecy.
訳例: その新型車には、燃費をよくする(燃費 [燃料効率] を向上する)ためのさまざまな機能が付加されています。
例 6:
原文: This approach also helps you achive shorter time to market.
訳例: この手法を利用すると、製品化までの時間を短縮することもできます。
例 7:
原文: For better business results, you are required to look into ....
訳例: 業績を上げるには、〜 について検証する必要があります。
例 8:
原文: For longer proudct life, periodically check:
訳例: 製品の寿命を長くするには、定期的に以下の項目を点検してください。
これ以外にも、日本語の定番表現である「〜化」を使う訳し方もあります。たとえば「薄型化」とは「より薄くする」ことですから、「〜化」は日本語における比較級だと考えることもできます。以下に例を示します。
例 9:
原文: Whenever engineers are pushing the limits of product design, tests must be conducted faster.
訳例: エンジニアが製品設計の現状を打破するには、試験を高速化する必要があります。
例 1 の英文も「〜化」を使った表現に訳すことができます。
例 1:
原文: This solution provides a more energy-efficeint system.
訳例: このソリューションによって、システムの省エネ化が実現します。
この訳し方を覚えておくと、日英翻訳の際に「〜化」に出くわしたとき、比較級を使って英語らしい文章に訳せる場合があるかもしれません。
例
日本語原文: ABC 社の対応によって、事態が深刻化する可能性もあります。
英訳例: The response of ABC Corporation may lead to a more serious situation.
いずれにしても、比較級が出現したら、自動的、機械的に「より〜(な)」と訳す前に、もっとわかりやすい表現、もっと自然な訳文はないだろうかと考えてみることが重要です。
カテゴリー: 1. 訳語・表現・表記
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例 1:
原文: This solution provides a more energy-efficeint system.
よく見かける訳文: このソリューションによって、よりエネルギー効率が高いシステムが実現します。
例 2:
原文: Our produducts can be installed at lower costs and in shorter periods of time.
よく見かける訳文: 当社の製品は、より低コスト、より短時間で設置できます。
英文に比較級が出てくると機械的に「より〜(な)」と訳す翻訳者は少なくありません。もちろん、「より〜(な)」は、立派な日本語であり、ことさら不自然だというわけではありません。しかし、別の訳し方を覚えることによって、表現の幅が広がり、文脈に応じた自然な日本語に訳せるようになります。
まずは、原文に隠された「than B」を表に出してやる方法を紹介します。英文であえて記述されていないということは、それほど重要な情報ではないのですが(自明の情報なのですが)、日本語ではこれを表に出してやるほうが自然な文章になる場合があります。「than B」として、暗に「従来よりも」や「他社製品よりも」などが内包されているケースが多いのですが、文脈によっては、それ以外の比較対象が隠れている場合もあります。
例 1:
原文: This solution provides a more energy-efficeint system.
訳例: このソリューションによって、従来よりもエネルギー効率が高いシステムが実現します。
例 2:
原文: Our produducts can be installed at lower costs and in shorter periods of time.
訳例: 当社の製品は、他社製品よりも低コスト、短時間で設置できます。
次に、比較級を動的に訳す方法を紹介します。比較級を常に「より(も)〜(な)」と静的に訳すのではなく、動的に訳してやると表現の幅が広がり、文脈によってはより自然な日本語になるケースもあります。つまり、「対象となる状態や性質が〜する」という捉え方をしてみるということです。「〜する」の部分には、文脈に応じた適切な日本語を見つけ出す必要があります。たとえば、比較級が修飾する語句が、効率、精度(正確性)、性能、能力などの場合は、「向上する」という表現が使えます。
例 1:
原文: This solution provides a more energy-efficeint system.
訳例: このソリューションによって、システムのエネルギー効率が向上します。
例 2:
原文: Our produducts can be installed at lower costs and in shorter periods of time.
訳例: 当社の製品では、設置コストが低減するだけでなく、設置時間も短縮されます。
例 3:
原文: This option ensures more accurate data collection.
訳例: このオプションを利用すると、データの収集精度が確実に向上します。
例 4:
原文: The placement accuracy in this case is more critical.
訳例: このケースでは、配置精度の重要性が増します。
例 5:
原文: The new-model car is equipped with additional features to achieve hihger fuel efficiecy.
訳例: その新型車には、燃費をよくする(燃費 [燃料効率] を向上する)ためのさまざまな機能が付加されています。
例 6:
原文: This approach also helps you achive shorter time to market.
訳例: この手法を利用すると、製品化までの時間を短縮することもできます。
例 7:
原文: For better business results, you are required to look into ....
訳例: 業績を上げるには、〜 について検証する必要があります。
例 8:
原文: For longer proudct life, periodically check:
訳例: 製品の寿命を長くするには、定期的に以下の項目を点検してください。
これ以外にも、日本語の定番表現である「〜化」を使う訳し方もあります。たとえば「薄型化」とは「より薄くする」ことですから、「〜化」は日本語における比較級だと考えることもできます。以下に例を示します。
例 9:
原文: Whenever engineers are pushing the limits of product design, tests must be conducted faster.
訳例: エンジニアが製品設計の現状を打破するには、試験を高速化する必要があります。
例 1 の英文も「〜化」を使った表現に訳すことができます。
例 1:
原文: This solution provides a more energy-efficeint system.
訳例: このソリューションによって、システムの省エネ化が実現します。
この訳し方を覚えておくと、日英翻訳の際に「〜化」に出くわしたとき、比較級を使って英語らしい文章に訳せる場合があるかもしれません。
例
日本語原文: ABC 社の対応によって、事態が深刻化する可能性もあります。
英訳例: The response of ABC Corporation may lead to a more serious situation.
いずれにしても、比較級が出現したら、自動的、機械的に「より〜(な)」と訳す前に、もっとわかりやすい表現、もっと自然な訳文はないだろうかと考えてみることが重要です。
カテゴリー: 1. 訳語・表現・表記
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