コラム7: 文法なんていらない?
世の中には文法不要論者がいます。アメリカ人の子どもは文法なんか知らなくてもちゃんと英語をしゃべっているというのです。日本人は文法を気にしすぎて、しゃべることに臆病になっているため、なかなかしゃべれるようにならないんだと彼らは言います。
でも、本当に文法はいらないのでしょうか。私たち日本人は、日本語の文法を意識しなくても正しい日本語をしゃべれますし、間違った日本語を聞けば、文法的な説明ができなくても間違っていることを指摘し、訂正することができます。たとえば「庭にバーベキューをする」という日本語を聞けば、それがおかしいことを指摘して、「庭でバーベキューをする」が正しいと教えることができます。しかし、どうして「庭に木を植える」は正しいのに、「庭にバーベキューをする」は間違いなのかと聞かれて、正しく説明できる人はどれくらいいるでしょうか。
私たちが日本語を習得する過程について考えてみましょう。子どもはまず単語を覚えます。絵本などを見ながら「これはブーブー」と何度も教えられます。「これは何色?」と聞かれて、質問の意味がわからなくて黙っていても、「これは赤」と教えてもらえます。そんなことを何度も繰り返しながら、物の名前を覚えたり、色の名前を覚えていきます。相手が言っていることがわからなくても、叱られることもないし、生活に困ることもありません。お皿を割ってしまったら「お皿が割れたね」と言われて、こういう状態を「割れる」と言うのだと理解します。こうやって、意味がさっぱりわからなくても、四六時中日本語を聞きながら、単語を発するだけの状態から次第に文章をしゃべれる状態に進展していきます。わからないことがあっても、親が代わりに答えてくれるので、何も困ることはありません。小学生くらいにもなると、難しいことばは理解できないにしても、大体のことは表現できるようになります。
英語習得において、私たちは自分をこのような環境に置くことができるでしょうか。6 〜 7 年、このような環境に自分を置けるのであれば、自然に基本的な英語を身に付けることは可能かもしれません。文法などわからなくても、感覚的に正しい英語と間違った英語を区別できるようになるかもしれません。
しかし、現実問題として、このような環境に自分を置くことは不可能でしょう。たとえ、留学したとしてもそれは無理です。特におとなになってからは、英語が感覚的にわかるようになることは難しいと思います。そうであれば、文法を理解してそれを補うしかないと Kunishiro は思います。世の中には、英会話と英語とを別個のものととらえて、難しいことは抜きにして、とにかく会話できるようになればいいんだという人がいます。しかし、いくら会話であっても、文法は守られています。それは、日本語でも英語でも同じです。会話だからと言って、3単元の s や時制の一致が無視されるわけではありません。目的補語だの第何文型だの文法用語を覚える必要はありませんが、文法、つまり文の規則は理解しておく必要があります。実際に、仮定法過去や仮定法過去完了といった、日常には必要なさそうに思われる項目でも、実際に会話ではよく使われています。
1. I'd buy it. (僕なら買うよ)
2. I could eat it. (食べようと思えば、食べられるよ)
3. You shouldn't have done it. (そんなことしなくてもよかったのに・・・)
上の例文はすべて仮定法の文章です。1. は、If I were you, I would buy it. の If I were you の部分が省略されたものですが、会話では if 〜 の部分は言わないことが多いような気がします。つまり、「僕が君なら買う」を簡単に「僕なら買う」と言っているわけで、would が日本語でいう「なら」の役割を果たしているわけです(日本語でも、「僕が君なら」の部分は言わないことが多いと思います)。
英会話学校に通ったり、留学したりすれば何とかなると思っている人もいますが、独学で文法をしっかり勉強する気がなければ、学校に行っても留学しても英語力はそれほど伸びません。ちょっとしたスラングを覚えるのが関の山でしょう(実際に、カタコトに毛が生えた程度の英語しかしゃべれない留学経験者を Kunishiro は山ほど知っています)。
スラングを交えて、それらしい発音でしゃべれたとしても、自分の意見をしっかりと伝えることができる英語力を身に付けなければ、何の役にも立ちません。「大切なのは、どのようにしゃべるかではなく、何をしゃべるかである」と Kunishiro は思います。
翻訳者を目指すのであれば、文法力はいっそう重要になります。正しさが求められるからです。文法力だけでなく、語彙を豊かにすることも重要であることは言うまでもありませんが。
カテゴリー: 4. 英語全般
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でも、本当に文法はいらないのでしょうか。私たち日本人は、日本語の文法を意識しなくても正しい日本語をしゃべれますし、間違った日本語を聞けば、文法的な説明ができなくても間違っていることを指摘し、訂正することができます。たとえば「庭にバーベキューをする」という日本語を聞けば、それがおかしいことを指摘して、「庭でバーベキューをする」が正しいと教えることができます。しかし、どうして「庭に木を植える」は正しいのに、「庭にバーベキューをする」は間違いなのかと聞かれて、正しく説明できる人はどれくらいいるでしょうか。
私たちが日本語を習得する過程について考えてみましょう。子どもはまず単語を覚えます。絵本などを見ながら「これはブーブー」と何度も教えられます。「これは何色?」と聞かれて、質問の意味がわからなくて黙っていても、「これは赤」と教えてもらえます。そんなことを何度も繰り返しながら、物の名前を覚えたり、色の名前を覚えていきます。相手が言っていることがわからなくても、叱られることもないし、生活に困ることもありません。お皿を割ってしまったら「お皿が割れたね」と言われて、こういう状態を「割れる」と言うのだと理解します。こうやって、意味がさっぱりわからなくても、四六時中日本語を聞きながら、単語を発するだけの状態から次第に文章をしゃべれる状態に進展していきます。わからないことがあっても、親が代わりに答えてくれるので、何も困ることはありません。小学生くらいにもなると、難しいことばは理解できないにしても、大体のことは表現できるようになります。
英語習得において、私たちは自分をこのような環境に置くことができるでしょうか。6 〜 7 年、このような環境に自分を置けるのであれば、自然に基本的な英語を身に付けることは可能かもしれません。文法などわからなくても、感覚的に正しい英語と間違った英語を区別できるようになるかもしれません。
しかし、現実問題として、このような環境に自分を置くことは不可能でしょう。たとえ、留学したとしてもそれは無理です。特におとなになってからは、英語が感覚的にわかるようになることは難しいと思います。そうであれば、文法を理解してそれを補うしかないと Kunishiro は思います。世の中には、英会話と英語とを別個のものととらえて、難しいことは抜きにして、とにかく会話できるようになればいいんだという人がいます。しかし、いくら会話であっても、文法は守られています。それは、日本語でも英語でも同じです。会話だからと言って、3単元の s や時制の一致が無視されるわけではありません。目的補語だの第何文型だの文法用語を覚える必要はありませんが、文法、つまり文の規則は理解しておく必要があります。実際に、仮定法過去や仮定法過去完了といった、日常には必要なさそうに思われる項目でも、実際に会話ではよく使われています。
1. I'd buy it. (僕なら買うよ)
2. I could eat it. (食べようと思えば、食べられるよ)
3. You shouldn't have done it. (そんなことしなくてもよかったのに・・・)
上の例文はすべて仮定法の文章です。1. は、If I were you, I would buy it. の If I were you の部分が省略されたものですが、会話では if 〜 の部分は言わないことが多いような気がします。つまり、「僕が君なら買う」を簡単に「僕なら買う」と言っているわけで、would が日本語でいう「なら」の役割を果たしているわけです(日本語でも、「僕が君なら」の部分は言わないことが多いと思います)。
英会話学校に通ったり、留学したりすれば何とかなると思っている人もいますが、独学で文法をしっかり勉強する気がなければ、学校に行っても留学しても英語力はそれほど伸びません。ちょっとしたスラングを覚えるのが関の山でしょう(実際に、カタコトに毛が生えた程度の英語しかしゃべれない留学経験者を Kunishiro は山ほど知っています)。
スラングを交えて、それらしい発音でしゃべれたとしても、自分の意見をしっかりと伝えることができる英語力を身に付けなければ、何の役にも立ちません。「大切なのは、どのようにしゃべるかではなく、何をしゃべるかである」と Kunishiro は思います。
翻訳者を目指すのであれば、文法力はいっそう重要になります。正しさが求められるからです。文法力だけでなく、語彙を豊かにすることも重要であることは言うまでもありませんが。
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