コラム9: 修行時代の悔しい思い出
修行時代の悔しい思い出
Kunishiro がプロの翻訳者を目指して勉強していたころの話を書きたいと思います。
とにかく短期間で、1 日も早くプロの翻訳者として仕事をしたいと考えていた Kunishiro は、いろいろな通信講座を受けたり、市販の翻訳関連の本を読んだり、Nifty Serve の翻訳フォーラムの過去ログを読んだりして勉強に励んでいました。そんな時、新聞で翻訳者の求人広告を見つけました。
「未経験者可。まずはお電話を」とあります。早速電話してみました。
Kunishiro: ○X 新聞の求人広告を拝見してお電話させていただきました。お仕事をさせていただきたいのですが・・・
T 社: 英訳をしてもらう人を募集しています。ただし、いろいろな言い回しを覚えてもらう必要があるので、まずは講座を受けていただく必要があります。
Kunishiro: その講座というのは、料金がかかるんでしょうか。それと、期間はどれくらいですか?
T 社: 月 4 回の添削講座で 1 箇月 1 万円です。期間は人によって異なります。わが社の要求する言い回しが身に着くまで受けていただきます。優秀な人だったら、3 箇月くらいで終了することも可能です。現在人材が不足しているので、短期間でわが社の言い回しを身に着けて、仕事を手伝ってもらえる人を探しています。
なんかうさん臭いなあと思いました。でも、1 箇月 1 万円で、早ければ 3 箇月で講座が終了。そのあとは仕事を回してもらえるかもしれない。もしいんちきだったとしても、3 万くらいならいいか。そう考えて、講座を受けることにしました。
数日後、マニュアル数ページをコピーしたものが送られてきました。「1 ページ目の半分ほどを訳して送ってください」とあります。早速、指定の箇所を訳して送りました。その後は、私の訳文に対するコメントが送られてきて、それを参考に訳文を修正していくという作業の繰り返しです。何度かのやり取りの中で、「翻訳者として将来有望な資質を備えています。1 日も早く私たちの戦力になってください」などと、期待を抱かせることばも書かれていました。
しかし、このような添削を繰り返していく中で、疑問に感じることがいろいろと出てきました。正しいはずの英語を間違っていると言われたり、説教めいた記述があったりするのです。とにかく、実績を作りたいと考えていたので、最初のうちは反論もせずに従っていましたが、たとえ仕事を回してもらったとしても、先方の推奨する変な英語、間違った英語を書くことに我慢ができなくなってきた Kunishiro は、もう仕事はいらないと思って、反論に出ました。いくら仕事を回してもらえたとしても、間違いだとわかっている英語を書くことなんてできません。
Kunishiro が書いたどのような英語が間違っていると言われたかについて、少し例を挙げておきます。
その結果、私はその人から、「破門」されてしまいました。「人の言うことを素直に聞けない人には、もう教えられない」と言われたのです。そして、「翻訳者を目指す前に、きちんとした社会生活が送れる人間になってください」など、ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせられました。相手のプライドを傷つけてしまった私にも悪いところはあったと思います。しかし、それにしても、このようなでたらめな講座でお金を取っておき、間違いを指摘されると、相手を人でなし呼ばわれする相手の姿勢には、夜も寝られないほど悔しい思いをしました。
翻訳者を募集することが目的ではなく、講座で収入を得ることを目的としたいんちきの募集だったのかどうかは、定かではありません。しかし、その後も T 社の求人広告は新聞で何度も目にしました。
実は、このような事件が発生する少し前に、Kunishiro は別の翻訳会社のトライアルに合格し、仕事を少しずつやらせてもらっていたのです。よくできているとお褒めのことばもいただいていたので、浴びせられた罵詈雑言には、ことさら腹が立ちました。
今となっては懐かしい思い出です。でも、これもきっといい経験だったのでしょう。
カテゴリー: 6. 翻訳全般
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Kunishiro がプロの翻訳者を目指して勉強していたころの話を書きたいと思います。
とにかく短期間で、1 日も早くプロの翻訳者として仕事をしたいと考えていた Kunishiro は、いろいろな通信講座を受けたり、市販の翻訳関連の本を読んだり、Nifty Serve の翻訳フォーラムの過去ログを読んだりして勉強に励んでいました。そんな時、新聞で翻訳者の求人広告を見つけました。
「未経験者可。まずはお電話を」とあります。早速電話してみました。
Kunishiro: ○X 新聞の求人広告を拝見してお電話させていただきました。お仕事をさせていただきたいのですが・・・
T 社: 英訳をしてもらう人を募集しています。ただし、いろいろな言い回しを覚えてもらう必要があるので、まずは講座を受けていただく必要があります。
Kunishiro: その講座というのは、料金がかかるんでしょうか。それと、期間はどれくらいですか?
T 社: 月 4 回の添削講座で 1 箇月 1 万円です。期間は人によって異なります。わが社の要求する言い回しが身に着くまで受けていただきます。優秀な人だったら、3 箇月くらいで終了することも可能です。現在人材が不足しているので、短期間でわが社の言い回しを身に着けて、仕事を手伝ってもらえる人を探しています。
なんかうさん臭いなあと思いました。でも、1 箇月 1 万円で、早ければ 3 箇月で講座が終了。そのあとは仕事を回してもらえるかもしれない。もしいんちきだったとしても、3 万くらいならいいか。そう考えて、講座を受けることにしました。
数日後、マニュアル数ページをコピーしたものが送られてきました。「1 ページ目の半分ほどを訳して送ってください」とあります。早速、指定の箇所を訳して送りました。その後は、私の訳文に対するコメントが送られてきて、それを参考に訳文を修正していくという作業の繰り返しです。何度かのやり取りの中で、「翻訳者として将来有望な資質を備えています。1 日も早く私たちの戦力になってください」などと、期待を抱かせることばも書かれていました。
しかし、このような添削を繰り返していく中で、疑問に感じることがいろいろと出てきました。正しいはずの英語を間違っていると言われたり、説教めいた記述があったりするのです。とにかく、実績を作りたいと考えていたので、最初のうちは反論もせずに従っていましたが、たとえ仕事を回してもらったとしても、先方の推奨する変な英語、間違った英語を書くことに我慢ができなくなってきた Kunishiro は、もう仕事はいらないと思って、反論に出ました。いくら仕事を回してもらえたとしても、間違いだとわかっている英語を書くことなんてできません。
Kunishiro が書いたどのような英語が間違っていると言われたかについて、少し例を挙げておきます。
- 「販売店」を distributor と訳したところ、「distributor は、『配電器』『分配器』という意味の電気・機械関係の専門用語です」
- 「手順」を procedure と訳したところ、「procedure は、『訴訟手続き』という意味の法律用語です」
- 「油漏れがないか点検する」を「Check it for oil leaks」と訳したところ、「it と for は不要です。辞書の check の項目をよく読んでみてください」
- 「XX については、32 ページを参照してください」を「For information about XX, see Page 32.」と訳したところ、「Page の前に the が必要です。ネイティブでもよく間違えるので、気をつけましょう」
その結果、私はその人から、「破門」されてしまいました。「人の言うことを素直に聞けない人には、もう教えられない」と言われたのです。そして、「翻訳者を目指す前に、きちんとした社会生活が送れる人間になってください」など、ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせられました。相手のプライドを傷つけてしまった私にも悪いところはあったと思います。しかし、それにしても、このようなでたらめな講座でお金を取っておき、間違いを指摘されると、相手を人でなし呼ばわれする相手の姿勢には、夜も寝られないほど悔しい思いをしました。
翻訳者を募集することが目的ではなく、講座で収入を得ることを目的としたいんちきの募集だったのかどうかは、定かではありません。しかし、その後も T 社の求人広告は新聞で何度も目にしました。
実は、このような事件が発生する少し前に、Kunishiro は別の翻訳会社のトライアルに合格し、仕事を少しずつやらせてもらっていたのです。よくできているとお褒めのことばもいただいていたので、浴びせられた罵詈雑言には、ことさら腹が立ちました。
今となっては懐かしい思い出です。でも、これもきっといい経験だったのでしょう。
カテゴリー: 6. 翻訳全般
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