コラム16: スペルとスペリング
OKWave に、以下のようなとても興味深い質問が投稿されています。
まず、私は「スペリング」のことを「スペル」と言うことについては、まったく抵抗がありません。たとえ、英語教師であっても「スペル」と言ってかまわないと思います。「スペル」は「つづり」という意味で日本語に定着した「外来語」であり、正しい日本語だからです。
「スペル」を「つづり」という意味の名詞として使うことを問題視するのであれば、「スキー」や「ドライブ」を名詞として使うことも問題視する必要があります。ski は「スキーをする」という意味の動詞であり、名詞は skiing です。「スキーに行く」は、「スキーイングに行く」と言う必要があります。また、車を運転するという意味の名詞は、正しくは driving であり、「ドライブする」という言い方も間違っていることになります(drive を名詞で使うと、「駆動装置」という意味になります)。
英語では、drive、driver、driving、drivable、・・・ といった具合に品詞によって単語が変化しますが、日本語の場合、漢語を含めた外来語は語形が変化することはありません。つまり、[勉強] + [する]、[ドライブ」 + [する]、[インストール] + [する] などから [する] を取った部分( 「勉強」「ドライブ」「インストール」)がそのまま名詞として使われます(英語における「インストール」の名詞形は「インストレーション」ですが、日本語では「インストール」がそのまま名詞として使われています)。このように、英語の動詞が日本語ではそのまま名詞として使われます。
(漢語を含めた外来語では語形は変化しませんが、「つづる」 → 「つづり」、「泣く」 → 「泣き」など、和語(大和ことば)では語形が変化します)。
これとは逆に、「ボクシング」や「ボーリング」など、「ing」が付いた形が日本語として定着しているものもあります。ボクシングの動詞形は box(ボクシングをする)、ボーリングの動詞形は bowl ですが、これらの単語が動詞形ではなく ing が付いた名詞形で日本語として定着したのは、ボックスは「箱」という意味で、ボールは「球」という意味ですでに定着していたため、これらと区別する必要があったからでしょう。
極論すれば、「少なくとも英語教師であれば、『スペル』は『スペリング』と言うべきである」という主張は、「英語教師であれば、『ドライブ』は『ドライビング』、『インストール』は『インストレーション』、『テレビ』は『テレビジョン』や『ティーヴィー』と言うべきだ」と主張するのと同じだと思います。
結論としては、たとえ英語として間違っていたとしても、日本語の特性に則って日本語として定着した外来語(カタカナ英語)は正しい日本語だと思います。ここに「正しい英語」という概念を持ち込んでしまうと、日本語が日本語として成り立たなくなってしまうのではないでしょうか。
カテゴリー: 5. 日本語
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スペルとスペリング質問者は続けて、このようにコメントしています。
英語の辞書によると Spell は動詞で、Spelling が名詞ですよね。
日本では「スペリング」というべきところを、「スペル」している例が多々見受けられます。
おそらく、「スペル」が和製英語として「スペリング」というのと同じ意味で用いられて いるのだと思います。
しかし、ときどき英語を教えることを生業にしてる人までが「スペリング」のことを 「スペル」といっているのを耳にしたり、目についたりすることがあります。 これはかなり抵抗あるんですが、皆さんどう思いますか??
「スペリング」のことを「スペル」と言うような英語教師はダメでしょうか?
(私は、教師としてはよくても、英語教師としてはダメだと思います。)
(OKWave の QNo.45339 より引用)
私が違和感があったのは、名詞としてスペリング(Spelling)という単語があり、日本語としても小数ながら通用しているのに、なぜ英語では動詞であるスペル(Spell)の方を英語教育者までもが使ってしまうのか?ということでした。日本語の特性に関連するとても興味深い内容だったので、Kunishiro が思ったことを書いてみたいと思います。
まず、私は「スペリング」のことを「スペル」と言うことについては、まったく抵抗がありません。たとえ、英語教師であっても「スペル」と言ってかまわないと思います。「スペル」は「つづり」という意味で日本語に定着した「外来語」であり、正しい日本語だからです。
「スペル」を「つづり」という意味の名詞として使うことを問題視するのであれば、「スキー」や「ドライブ」を名詞として使うことも問題視する必要があります。ski は「スキーをする」という意味の動詞であり、名詞は skiing です。「スキーに行く」は、「スキーイングに行く」と言う必要があります。また、車を運転するという意味の名詞は、正しくは driving であり、「ドライブする」という言い方も間違っていることになります(drive を名詞で使うと、「駆動装置」という意味になります)。
英語では、drive、driver、driving、drivable、・・・ といった具合に品詞によって単語が変化しますが、日本語の場合、漢語を含めた外来語は語形が変化することはありません。つまり、[勉強] + [する]、[ドライブ」 + [する]、[インストール] + [する] などから [する] を取った部分( 「勉強」「ドライブ」「インストール」)がそのまま名詞として使われます(英語における「インストール」の名詞形は「インストレーション」ですが、日本語では「インストール」がそのまま名詞として使われています)。このように、英語の動詞が日本語ではそのまま名詞として使われます。
(漢語を含めた外来語では語形は変化しませんが、「つづる」 → 「つづり」、「泣く」 → 「泣き」など、和語(大和ことば)では語形が変化します)。
これとは逆に、「ボクシング」や「ボーリング」など、「ing」が付いた形が日本語として定着しているものもあります。ボクシングの動詞形は box(ボクシングをする)、ボーリングの動詞形は bowl ですが、これらの単語が動詞形ではなく ing が付いた名詞形で日本語として定着したのは、ボックスは「箱」という意味で、ボールは「球」という意味ですでに定着していたため、これらと区別する必要があったからでしょう。
極論すれば、「少なくとも英語教師であれば、『スペル』は『スペリング』と言うべきである」という主張は、「英語教師であれば、『ドライブ』は『ドライビング』、『インストール』は『インストレーション』、『テレビ』は『テレビジョン』や『ティーヴィー』と言うべきだ」と主張するのと同じだと思います。
結論としては、たとえ英語として間違っていたとしても、日本語の特性に則って日本語として定着した外来語(カタカナ英語)は正しい日本語だと思います。ここに「正しい英語」という概念を持ち込んでしまうと、日本語が日本語として成り立たなくなってしまうのではないでしょうか。
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