Translation Room 9246

いつのころからか「〜したときがある」という表現をよく耳にするようになりました。特にテレビでよく耳にします。この「〜したときがある」という言い方は、「〜したことがある」と同じ意味で、つまり経験を表す表現として使われているようです。特定の年代の人（若者）だけが使う表現なのか、それとも特定の地域で使われていたものが全国的に広がりつつあるのかよくわかりませんが、私の感覚からすると、容易に許容できない違和感を覚えます。

単なる推測ですが、この「〜したときがある」という表現は、「〜していた時期がある」から派生したのではないでしょうか。たとえば「ドイツ語を勉強していた時期がある」と言えば、「今はそういう習慣はないけれども、過去の一定期間ドイツ語を習慣的に勉強していた」という意味です。これは、単に経験があることを表す「〜したことがある」とは別の意味を持つ正しい表現です。

そして、この「〜していた時期がある」は「〜していた時がある」と言い換えることができます。「私は若いころドイツ語を勉強していた時がある」は「私は若いころドイツ語を勉強していた時期がある」と同じ意味であり違和感もありません。「〜していた時がある」が成立するためには、ある程度の時間や期間が継続している必要があります。以下の例では「〜していた時がある」という表現はおかしくありません。

• 何もかもがまくいかず、泣いてばかりいた時がある
• 間違いを犯した部下に厳しく怒っていた時がある。

そして、この「〜していた時がある」がさらに「〜したときがある」に変形し、一部の人が「〜したことがある」と同じ意味で使い出しそれが広まった。これが「〜したときがある」の発生のいきさつだと考えるのは間違いでしょうか。

それでは、「〜した時がある」はどんな場合でも違和感を与えるのでしょうか。「〜した時がある」を使っても違和感を与えないケースを考えてみました。こんなのはどうでしょうか。

• 数十年前、この川が氾濫して、このあたり一帯が水浸しになった時がある。

これなら、水浸しになっていた時間がある程度継続していたことを表しており、「〜なったことがある」とは若干意味合いが異なるような気がします。この例ならぎりぎり OK のような気もしますが、それでもやっぱり「水浸しになったことがある」のほうがしっくりきます。

ことばは時代とともに変化すると言いますが、それでも「フランスに行ったときがある」だとか「キャビアは食べたときがない」といった妙な表現を認めてよいと思ったことはありません。また、そのように思った時もありません（思った時期もありません）。

カテゴリー: 5. 日本語

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