コラム 46: 保証には有償も無償もない
工業製品の取扱説明書を英訳していた時のことです。日本語の原稿に「無償保証期間」という記述がありました。具体的な説明を読んでみると、通常の保証に関する記述であり、保証期間や保証の範囲(保証の対象外)について書かれていました。
そもそも保証とは、「確かだ、まちがい無い(万一の時は責任を取る)と請け合うこと」(新明解国語辞典)であり、この行為には有償も無償もありません。このマニュアル作成者はどうして「無償保証期間」などというおかしい日本語を使ってしまったのでしょうか。
一般的に保証期間とは、製品が正常に動作することをメーカーが請け負う期間のことです(ただし、不具合の原因が自然災害やユーザーの不適切な操作などの場合は、一般的には保証の対象から除外されます)。したがって、この期間中に、万が一メーカーの責任による不具合が発生した場合は、メーカーは無償で対応(修理・交換)する必要があります。おそらく、マニュアル作成者の頭の中で、この無償対応(修理・交換)と(無償)保証がごっちゃになってしまたったのでしょう。ちなみに、一定期間が過ぎた場合や、自然災害やユーザーの間違った操作が原因で不具合が発生した場合でも、メーカーが有償で対応(修理)することはありますが、これは有償保証ではなく、単なる有償対応(修理)です(製品の保証はしないが、有償での対応を保証することはありえます)。
したがって、「無償保証期間」という表現は、単に「保証期間」とするか、または「無償対応期間」とすべきです。「無償対応を保証する期間」としてもよいのですが、ここまで冗長に表現する必要はないでしょう。
2 つのことばがごっちゃになると言えば、以前 Diary 9246 のエントリー「1,000 円からお預かりします」で混交について言及したことを思い出しました。混交とは、似たような形の表現の前半部と後半部とが、混ざり合ってしまう現象です。例としては、以下のようなものがあります。今回遭遇した「無償保証期間」もある種の混交現象なのかもしれません。
的を射た x 当を得た = 的を得た
汚名返上 x 名誉挽回 = 汚名挽回
1,000 円から頂戴します x 1,000 円お預かりします = 1,000 円からお預かりします
余談になりますが、このマニュアルでは、保証対象の除外規定として、「本製品を使用したことによって生じた間接的損害についても保証しません」という記述がありました。この場合の「ほしょう」は「保証」ではなく、「補償」です。この原稿作成者は、保証と補償をもごちゃごちゃにしているようです。なお、「ほしょう」には、「保証」「補償」以外にも「保障」という漢字表記があり、この 3 つを区別できていない人もいるので注意が必要です。
混交に関する詳しい説明は、『愉快な日本語講座』に記載されています。
カテゴリー: 5. 日本語
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そもそも保証とは、「確かだ、まちがい無い(万一の時は責任を取る)と請け合うこと」(新明解国語辞典)であり、この行為には有償も無償もありません。このマニュアル作成者はどうして「無償保証期間」などというおかしい日本語を使ってしまったのでしょうか。
一般的に保証期間とは、製品が正常に動作することをメーカーが請け負う期間のことです(ただし、不具合の原因が自然災害やユーザーの不適切な操作などの場合は、一般的には保証の対象から除外されます)。したがって、この期間中に、万が一メーカーの責任による不具合が発生した場合は、メーカーは無償で対応(修理・交換)する必要があります。おそらく、マニュアル作成者の頭の中で、この無償対応(修理・交換)と(無償)保証がごっちゃになってしまたったのでしょう。ちなみに、一定期間が過ぎた場合や、自然災害やユーザーの間違った操作が原因で不具合が発生した場合でも、メーカーが有償で対応(修理)することはありますが、これは有償保証ではなく、単なる有償対応(修理)です(製品の保証はしないが、有償での対応を保証することはありえます)。
したがって、「無償保証期間」という表現は、単に「保証期間」とするか、または「無償対応期間」とすべきです。「無償対応を保証する期間」としてもよいのですが、ここまで冗長に表現する必要はないでしょう。
2 つのことばがごっちゃになると言えば、以前 Diary 9246 のエントリー「1,000 円からお預かりします」で混交について言及したことを思い出しました。混交とは、似たような形の表現の前半部と後半部とが、混ざり合ってしまう現象です。例としては、以下のようなものがあります。今回遭遇した「無償保証期間」もある種の混交現象なのかもしれません。
的を射た x 当を得た = 的を得た
汚名返上 x 名誉挽回 = 汚名挽回
1,000 円から頂戴します x 1,000 円お預かりします = 1,000 円からお預かりします
余談になりますが、このマニュアルでは、保証対象の除外規定として、「本製品を使用したことによって生じた間接的損害についても保証しません」という記述がありました。この場合の「ほしょう」は「保証」ではなく、「補償」です。この原稿作成者は、保証と補償をもごちゃごちゃにしているようです。なお、「ほしょう」には、「保証」「補償」以外にも「保障」という漢字表記があり、この 3 つを区別できていない人もいるので注意が必要です。
保証: 確かだ、まちがい無い(万一の時は責任を取る)と請け合うこと英訳時には、たとえ原稿で「無償保証期間」となっていても、Free warranty period や Charge-free warranty period などとしないようにし、「損害を保証する」となっていても、warrant や guarantee といった動詞をうっかり使用しないように注意する必要があります。
補償: 与えた損害などを償うこと
保障: それが守られるように手段を講じること
(すべて新明解国語辞典)
混交に関する詳しい説明は、『愉快な日本語講座』に記載されています。
愉快な日本語講座 添田 建治郎 小学館 2005-06 by G-Tools |
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