1: 翻訳とは
ひと口に翻訳と言っても、大きく分けて文芸翻訳、映像翻訳、産業(実務)翻訳といった
3 つのグループに分かれます。翻訳者と呼ばれる人たちの大半は 3 つ目のグループ(産業翻訳)に属しており、Kunishiro
も産業翻訳者のひとりです。
産業翻訳とは、その名が示すとおり、企業活動において発生するビジネス文書(製品の操作マニュアル、仕様書、ビジネスレター、契約書、会社案内、パンフレット、ホームページ、報告書、プレゼンテーション資料、プレスリリースなど)を翻訳することです。華々しい文芸翻訳や映像翻訳の世界とは異なり、世間に名前が出ることもめったにない地味な仕事です。
「職業は何ですか?」と聞かれて、「フリーランスの翻訳者です」と答えると、「英語ができるんですね」と言ってくれる方は多くいますが、「文章を書くのが上手なんですね」とか「日本語力があるんですね」と言ってくれる方はほとんどいません。
産業(実務)翻訳者にとって重要な資質は、「外国語(英語)力」「日本語力」「専門知識」の 3 つであるとよく言われます。確かにこの 3 つは翻訳者にとって欠くことのできない重要な要素です。しかし、Kunishiro は、それ以上に重要なものがあると思っています。それは、翻訳センス(文章を書くセンス)です。
海外在住経験のある方、帰国子女、すばらしい英語力を持った方(英検 1 級保持者、TOEIC スコア 900 点台後半の方)の翻訳を拝見したことがありますが、Kunishiro が上手だと思った方はほとんどいません(海外在住経験もなく、帰国子女でもない Kunishiro の英語力はこのような方たちにはとうてい及びません)。
すばらしい英語力を持っていても、上手な訳文が書けない人に共通することは何でしょうか? それは、訳文の日本語が日本語らしくない(英語が英語らしくない)ということです。
日本語力の問題でしょうか? 結論は「ノー」だと Kunishiro は考えます。日本に生まれ、日本語で生活する環境に育った普通の日本人であれば、日本語力にそれほど大差はありません。たいていの人は、手紙やメールで自然な日本語、そして日本語らしい日本語を書いています。これは、日本語で考え、最初から日本語で書いているからです。
それが、翻訳になると突然、奇妙な日本語になってしまうのです。「これは、翻訳なんだから仕方がない」とか、「原文に忠実に訳すとこうなる」という人もいますが、果たしてそうでしょうか?
ここで、翻訳の目的について考えてみましょう。クライアントは、何のために翻訳を依頼するのでしょうか? 外国語で書かれた情報を把握すること、または日本語で書かれた情報を日本語を理解できない第三者に伝えるためです。
原文がどのような構造になっているのか(構文)とか、原文でどのような単語が使われているのか、といったことを知りたいと思っているクライアントはいないはずです。クライアントが知りたい(または伝えたい)と思っているものはそこに書かれた情報です。
翻訳者の仕事は、原文に書かれた情報を過不足なく、別の言語に置き換えることです。一字一句を構文どおりに置き換えることではありません。
翻訳した文章が、日本語らしくない日本語(または英語らしくない英語)になってしまう大きな原因は、ソース言語(原文の言語)の発想をそのままターゲット言語(翻訳対象言語)に持ち込んでしまうからです。
つまり、英語の発想で書かれた文章を、発想までもそのまま訳してしまおうとするからおかしなことになるわけです。英語の発想を、日本語の発想に変えないと自然な日本語にはなりません。
「意味がどうにかわかる」だけの訳文では、プロの仕事とは言えません(語学力がある学生でも十分書けます)。Kunishiro が目指しているのは、読んだ人が翻訳であることに気付かない(違和感を感じない)ような翻訳、1 回読んだだけですっと頭に入るような翻訳です(でも、これがなかなか難しく、自分自身で100%満足できるような仕事は、10 回に 1 回程度しかできていません)。
具体例を挙げて説明してみます。
もう 1 つ例を示します。
翻訳には、原文の意味を正しく理解できる最低限の英語(語学)力が必要であることは言うまでもありません。しかし、英語(外国語)ができることは、翻訳の十分条件ではありません。
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産業翻訳とは、その名が示すとおり、企業活動において発生するビジネス文書(製品の操作マニュアル、仕様書、ビジネスレター、契約書、会社案内、パンフレット、ホームページ、報告書、プレゼンテーション資料、プレスリリースなど)を翻訳することです。華々しい文芸翻訳や映像翻訳の世界とは異なり、世間に名前が出ることもめったにない地味な仕事です。
「職業は何ですか?」と聞かれて、「フリーランスの翻訳者です」と答えると、「英語ができるんですね」と言ってくれる方は多くいますが、「文章を書くのが上手なんですね」とか「日本語力があるんですね」と言ってくれる方はほとんどいません。
産業(実務)翻訳者にとって重要な資質は、「外国語(英語)力」「日本語力」「専門知識」の 3 つであるとよく言われます。確かにこの 3 つは翻訳者にとって欠くことのできない重要な要素です。しかし、Kunishiro は、それ以上に重要なものがあると思っています。それは、翻訳センス(文章を書くセンス)です。
海外在住経験のある方、帰国子女、すばらしい英語力を持った方(英検 1 級保持者、TOEIC スコア 900 点台後半の方)の翻訳を拝見したことがありますが、Kunishiro が上手だと思った方はほとんどいません(海外在住経験もなく、帰国子女でもない Kunishiro の英語力はこのような方たちにはとうてい及びません)。
すばらしい英語力を持っていても、上手な訳文が書けない人に共通することは何でしょうか? それは、訳文の日本語が日本語らしくない(英語が英語らしくない)ということです。
日本語力の問題でしょうか? 結論は「ノー」だと Kunishiro は考えます。日本に生まれ、日本語で生活する環境に育った普通の日本人であれば、日本語力にそれほど大差はありません。たいていの人は、手紙やメールで自然な日本語、そして日本語らしい日本語を書いています。これは、日本語で考え、最初から日本語で書いているからです。
それが、翻訳になると突然、奇妙な日本語になってしまうのです。「これは、翻訳なんだから仕方がない」とか、「原文に忠実に訳すとこうなる」という人もいますが、果たしてそうでしょうか?
ここで、翻訳の目的について考えてみましょう。クライアントは、何のために翻訳を依頼するのでしょうか? 外国語で書かれた情報を把握すること、または日本語で書かれた情報を日本語を理解できない第三者に伝えるためです。
原文がどのような構造になっているのか(構文)とか、原文でどのような単語が使われているのか、といったことを知りたいと思っているクライアントはいないはずです。クライアントが知りたい(または伝えたい)と思っているものはそこに書かれた情報です。
翻訳者の仕事は、原文に書かれた情報を過不足なく、別の言語に置き換えることです。一字一句を構文どおりに置き換えることではありません。
翻訳した文章が、日本語らしくない日本語(または英語らしくない英語)になってしまう大きな原因は、ソース言語(原文の言語)の発想をそのままターゲット言語(翻訳対象言語)に持ち込んでしまうからです。
つまり、英語の発想で書かれた文章を、発想までもそのまま訳してしまおうとするからおかしなことになるわけです。英語の発想を、日本語の発想に変えないと自然な日本語にはなりません。
「意味がどうにかわかる」だけの訳文では、プロの仕事とは言えません(語学力がある学生でも十分書けます)。Kunishiro が目指しているのは、読んだ人が翻訳であることに気付かない(違和感を感じない)ような翻訳、1 回読んだだけですっと頭に入るような翻訳です(でも、これがなかなか難しく、自分自身で100%満足できるような仕事は、10 回に 1 回程度しかできていません)。
具体例を挙げて説明してみます。
- Document A should be kept for 3 years.
- 文書 A は 3 年間保管されるべきです。
- 文書 A は 3 年間保管してください。
- 文書 A は 3 年間保管しておく必要があります。
- 文書 A については、3 年間保管するものとします。
もう 1 つ例を示します。
- This button copies the selected file(s) to the designated folder.
- このボタンは、選択されたファイルを指定されたフォルダにコピーします。
- このボタンを押すと、選択したファイル(複数選択可)が指定のフォルダにコピーされます。
- 選択したファイル(複数選択可)を指定のフォルダにコピーするときにこのボタンを使います。
翻訳には、原文の意味を正しく理解できる最低限の英語(語学)力が必要であることは言うまでもありません。しかし、英語(外国語)ができることは、翻訳の十分条件ではありません。
今までの学習法で、英語が話せるようになりましたか?
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