コラム4: フライにされた魚
ホームページなどの文章を読んでいると、以下のような不自然な日本語に出くわすことがよくあります。
英語では、この [過去分詞 + 名詞] という表現がよく使われます。私たちは、過去分詞は「〜された」と訳すと習ってきました。駆け出しの翻訳者だったころ、Kunishiro はこの「〜された〜」という表現に大きな違和感を覚え、もっと日本語らしい日本語に訳せないものだろうかと考えていました。
そんなとき、魚フライを見て思いました。魚フライは、英語では fried fish というでしょう。(ちなみに、fish fry は、釣った魚を揚げて食べるピクニック; 魚を揚げながらする夕食 [ランダムハウス英語辞典より] という意味のようです)。私たちは、日常会話で「フライにされた魚を食べた」などとは決して言いません。そうです。日本語と英語では、過去分詞と名詞がまったく逆になっていることに気が付いたのです。つまり、英語では「フライにされた魚」と表現するのに対して、日本語では「魚(の)フライ」と表現するということです。
そこで、ほかのケースでも [過去分詞 + 名詞] → [名詞(の) + 過去分詞(を名詞化したもの)] と、語順を逆にすることができないかと考えてみました。
訳例 A: [過去分詞 + 名詞] を「〜された〜」と訳した例
訳例 B: 過去分詞と名詞の語順を逆にして訳した例
例文 1
The report did not mention the proposed improvement.
訳例 A: 報告書には、提案された改善に関する記述がなかった。
訳例 B: 報告書には、改善案に関する記述がなかった。
例文 2
These efforts will lead to an integrated production environment.
訳例 A: このような取り組みが、統合された生産環境につながる。
訳例 B: このような取り組みによって、生産環境の統合が実現する。
例文 3
The documented instructions must be maintained by the quality control section.
訳例 A: 文書化された指示は、品質管理課が管理すること。
訳例 B: 指示書は、品質管理課が管理すること。
例文 4
If you are a registered user, click here.
訳例 A: 登録されたユーザーは、ここをクリックしてください。
訳例 B: ユーザー登録されている方は、ここをクリックしてください。
単純に、過去分詞と名詞の順序を逆にするだけでは日本語として成立しないケースもあります。以下の例では、「A された B」を「B を A する」や「B が A される」 と訳すと自然な日本語になります。
例文 5
The market research resulted in many improved products.
訳例 A: 市場調査によって、多くの改善された製品がもたらされた。
訳例 B: 市場調査を実施した結果、多くの製品が改善された。
例文 6
This plan requires improved service and enhanced technology.
訳例 A: この計画では、改善されたサービスと強化された技術が必要とされる。
訳例 B: この計画を実行するには、サービスを改善し技術を強化する必要がある。
このテクニックは、[過去分詞 + 名詞] にかぎらず、現在分詞を含め、[形容詞 + 名詞] 全般に応用できます。 そのままの語順で訳すと日本語としてしっくりこないような場合は、次のように形容詞と名詞の語順を逆にすると自然な日本語になる場合もあります。
entire sytem: 全体のシステム → システム全体
growing demand: 増大する需要 → 需要の増大
regional focus: 地域的重点 → 重点地域
beta software: ベータ版ソフトウェア → ソフトウェアのベータ版
abnormal quality: 異常な品質 → 品質異常
もちろん、過去分詞(形容詞)と名詞の語順をいつもで逆にすればよいということではありません。たとえば、integrated system は「統合型システム」や「一体型システム」などと訳したほうがすっきりする場合もあります。
ここでは、過去分詞を自然な日本語に訳す方法を取り上げましたが、これ以外にも、英語の発想をそのまま日本語に持ち込んでいるために、不自然な日本語になっている例は数多く見られます。過去分詞の訳し方に限らず、「もっと自然な日本語に訳す方法はないだろうか」という問題意識を常に持つことが重要です。「意味がわかるからこれでいいや」とか「ほかの翻訳者もそう訳してるから」といった理由で、自分の訳文に何の疑問も持たずに機械的な翻訳を続けていては、いつまでたっても翻訳の質は向上しないと思います。もう 1 つ重要なことは、日英翻訳において「改善案」を proposed improvement と訳せるかどうかです。過去分詞を見たら、自動的に「〜された」と訳している翻訳者には、このような英語らしい英語は書けないのではないかと思います。
カテゴリー: 1. 訳語・表現・表記
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- 統合されたインフラでは、ネットワークの管理コストを最小限に抑えることができます。
- 〜は、複数のデリバリーチャネルを通じて、改善されたサービスを提供します。
英語では、この [過去分詞 + 名詞] という表現がよく使われます。私たちは、過去分詞は「〜された」と訳すと習ってきました。駆け出しの翻訳者だったころ、Kunishiro はこの「〜された〜」という表現に大きな違和感を覚え、もっと日本語らしい日本語に訳せないものだろうかと考えていました。
そんなとき、魚フライを見て思いました。魚フライは、英語では fried fish というでしょう。(ちなみに、fish fry は、釣った魚を揚げて食べるピクニック; 魚を揚げながらする夕食 [ランダムハウス英語辞典より] という意味のようです)。私たちは、日常会話で「フライにされた魚を食べた」などとは決して言いません。そうです。日本語と英語では、過去分詞と名詞がまったく逆になっていることに気が付いたのです。つまり、英語では「フライにされた魚」と表現するのに対して、日本語では「魚(の)フライ」と表現するということです。
そこで、ほかのケースでも [過去分詞 + 名詞] → [名詞(の) + 過去分詞(を名詞化したもの)] と、語順を逆にすることができないかと考えてみました。
訳例 A: [過去分詞 + 名詞] を「〜された〜」と訳した例
訳例 B: 過去分詞と名詞の語順を逆にして訳した例
例文 1
The report did not mention the proposed improvement.
訳例 A: 報告書には、提案された改善に関する記述がなかった。
訳例 B: 報告書には、改善案に関する記述がなかった。
例文 2
These efforts will lead to an integrated production environment.
訳例 A: このような取り組みが、統合された生産環境につながる。
訳例 B: このような取り組みによって、生産環境の統合が実現する。
例文 3
The documented instructions must be maintained by the quality control section.
訳例 A: 文書化された指示は、品質管理課が管理すること。
訳例 B: 指示書は、品質管理課が管理すること。
例文 4
If you are a registered user, click here.
訳例 A: 登録されたユーザーは、ここをクリックしてください。
訳例 B: ユーザー登録されている方は、ここをクリックしてください。
単純に、過去分詞と名詞の順序を逆にするだけでは日本語として成立しないケースもあります。以下の例では、「A された B」を「B を A する」や「B が A される」 と訳すと自然な日本語になります。
例文 5
The market research resulted in many improved products.
訳例 A: 市場調査によって、多くの改善された製品がもたらされた。
訳例 B: 市場調査を実施した結果、多くの製品が改善された。
例文 6
This plan requires improved service and enhanced technology.
訳例 A: この計画では、改善されたサービスと強化された技術が必要とされる。
訳例 B: この計画を実行するには、サービスを改善し技術を強化する必要がある。
このテクニックは、[過去分詞 + 名詞] にかぎらず、現在分詞を含め、[形容詞 + 名詞] 全般に応用できます。 そのままの語順で訳すと日本語としてしっくりこないような場合は、次のように形容詞と名詞の語順を逆にすると自然な日本語になる場合もあります。
entire sytem: 全体のシステム → システム全体
growing demand: 増大する需要 → 需要の増大
regional focus: 地域的重点 → 重点地域
beta software: ベータ版ソフトウェア → ソフトウェアのベータ版
abnormal quality: 異常な品質 → 品質異常
もちろん、過去分詞(形容詞)と名詞の語順をいつもで逆にすればよいということではありません。たとえば、integrated system は「統合型システム」や「一体型システム」などと訳したほうがすっきりする場合もあります。
ここでは、過去分詞を自然な日本語に訳す方法を取り上げましたが、これ以外にも、英語の発想をそのまま日本語に持ち込んでいるために、不自然な日本語になっている例は数多く見られます。過去分詞の訳し方に限らず、「もっと自然な日本語に訳す方法はないだろうか」という問題意識を常に持つことが重要です。「意味がわかるからこれでいいや」とか「ほかの翻訳者もそう訳してるから」といった理由で、自分の訳文に何の疑問も持たずに機械的な翻訳を続けていては、いつまでたっても翻訳の質は向上しないと思います。もう 1 つ重要なことは、日英翻訳において「改善案」を proposed improvement と訳せるかどうかです。過去分詞を見たら、自動的に「〜された」と訳している翻訳者には、このような英語らしい英語は書けないのではないかと思います。
カテゴリー: 1. 訳語・表現・表記
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