コラム 27: コンピューター日本語 - add は本当に「追加(する)」?
コンピューター分野でのみ使われる変な日本語を私は「コンピュータ日本語」と呼んでいます。私が違和感を覚えるのは、主に「〜(プログラム名)は、〜をしています」、「〜が現れます」「〜に追加する」といった
3 つの表現です。
英語の文章では、必ず動作の主体(主語)と動作の対象(述語、目的語)が必要ですが、日本語は状態を述べるだけで成立する言語です。ですから、単に「インストールの準備をしています」や「ファイルのサイズをチェックしています」だけで成立します。本来の主語なし表現のほうが日本語としてしっくりきます。ソフトウェアや OS が何らかの意思を持って何かを実行しているような表現は、コンピューターの世界だけで使われる妙な日本語表現だと思います。
日本人が普通に日本語の発想に基づいて書けば、「xxx 画面が表示されます」となると思うのですが・・・。
「アドレス帳に追加する」だとか「お気に入りに追加する」など、この「追加(する)」という表現は、コンピューターの世界では完全に定着しています。これは、英語の add を「追加する」と訳したことが基になっていることは容易に想像できます。しかし、add は本当に「追加する」でいいのでしょうか。
google 英語辞書では、add を以下のように定義しています。
Add some salt to the soup.
という英文は、「スープに塩を入れてください」と訳すのが普通ですが、「スープに塩を追加してください」と訳すと、「すでに塩が入れられているスープにさらに塩を加える」という意味に解釈されます。
コンピュータのプログラムなどで私が違和感を覚えるのはこの部分です。つまり、アドレス帳にいくらかのアドレスがすでに入れられている場合は、「アドレス帳に追加する」ことは可能なのですが、何のデータも入っていない場合は「追加」できないのです。私は、このようなケースで add に対応する日本語は「追加する」ではなく、「登録する」や「加える」だと思っています。現に私の携帯では、「アドレス帳に登録する」という表現が使われています。日本語の発想に基づいた日本語らしい自然な表現は、この「アドレス帳に登録する」のほうではないでしょうか。
おそらく最初に「追加」と訳してしまったため、これが当たり前の表現として定着してしまったのでしょう。私は、できるかぎり「追加」ではなく「登録」と訳すようにしているのですが、クライアントから「追加」と訳すように指示を受けることもあります。本当は「追加」とは訳したくないのですが、これだけ定着してしまうと、指示に従わざるをえないですね。
カテゴリー: 1. 訳語・表現・表記
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〜(アプリケーション名、プログラム名)は、〜をしています
たとえば、アプリケーションのインストールプログラムを実行すると、「abc ソフトウェアのセットアッププログラムはインストールの準備をしています」といったメッセージが表示される場合があります。また、ソフトウェアによっては、「abc ソフトはファイルのサイズをチェックしています」のようなメッセージが表示されることもあります。英語の文章では、必ず動作の主体(主語)と動作の対象(述語、目的語)が必要ですが、日本語は状態を述べるだけで成立する言語です。ですから、単に「インストールの準備をしています」や「ファイルのサイズをチェックしています」だけで成立します。本来の主語なし表現のほうが日本語としてしっくりきます。ソフトウェアや OS が何らかの意思を持って何かを実行しているような表現は、コンピューターの世界だけで使われる妙な日本語表現だと思います。
〜が現れます
上述の「〜は〜をしています」は、翻訳されたプログラムに比較的に多く見られる表現ですが、最近、翻訳ではなく、日本語で書き起こした文章でもよく「〜画面が現れます」という表現を目にします。「A xxx screen appears」という英文が、「xxx 画面が現れます」と訳されているのはよく目にしますが、このおかしな訳文が日本語として定着しつつあるということなんでしょうか。日本人が普通に日本語の発想に基づいて書けば、「xxx 画面が表示されます」となると思うのですが・・・。
追加(する)
最後は「追加」です。追加のどこがおかしいのかと思われる方も多いと思いますが、私はこの「追加(する)」という表現を見るたびに「コンピューター日本語」だと思ってしまいます。「アドレス帳に追加する」だとか「お気に入りに追加する」など、この「追加(する)」という表現は、コンピューターの世界では完全に定着しています。これは、英語の add を「追加する」と訳したことが基になっていることは容易に想像できます。しかし、add は本当に「追加する」でいいのでしょうか。
google 英語辞書では、add を以下のように定義しています。
add一方の「追加」は、新明解国語辞典と広辞苑では次のように定義されています。
If you add one thing to another, you put it in or on the other thing, to increase, complete, or improve it.
(Kunishiro 訳: 何かに何か別のものを add するというのは、対象となる物にそれを入れたり加えたりすることである)
新明解国語辞典英語の add と日本語の「追加」は微妙に意味が異なると思いませんか。たとえば、
追加: あとから付け加え△る(て、不足を補う)こと。
広辞苑
追加: 後から増し加えること。また、その加えられたもの。
Add some salt to the soup.
という英文は、「スープに塩を入れてください」と訳すのが普通ですが、「スープに塩を追加してください」と訳すと、「すでに塩が入れられているスープにさらに塩を加える」という意味に解釈されます。
コンピュータのプログラムなどで私が違和感を覚えるのはこの部分です。つまり、アドレス帳にいくらかのアドレスがすでに入れられている場合は、「アドレス帳に追加する」ことは可能なのですが、何のデータも入っていない場合は「追加」できないのです。私は、このようなケースで add に対応する日本語は「追加する」ではなく、「登録する」や「加える」だと思っています。現に私の携帯では、「アドレス帳に登録する」という表現が使われています。日本語の発想に基づいた日本語らしい自然な表現は、この「アドレス帳に登録する」のほうではないでしょうか。
おそらく最初に「追加」と訳してしまったため、これが当たり前の表現として定着してしまったのでしょう。私は、できるかぎり「追加」ではなく「登録」と訳すようにしているのですが、クライアントから「追加」と訳すように指示を受けることもあります。本当は「追加」とは訳したくないのですが、これだけ定着してしまうと、指示に従わざるをえないですね。
カテゴリー: 1. 訳語・表現・表記
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