コラム 42: must を日本語らしく訳す(must を人目線で訳す)
マニュアルなどの翻訳で、must が「〜でなければなりません」とか「〜しなければなりません」などと訳されていることがあります。そういう文章(訳文)を見ると、もう少し日本語らしい文章にできないものかと思ってしまいます。たとえば、こんな感じです。
例 1
原文: This file must be copied to the abc folder.
訳文: このファイルが abc フォルダにコピーされていなければなりません。
例 2
原文: The parameter value must be between 1 and 999.
訳文: パラメータは 1 〜 999 の値でなければなりません。
例 3
原文: The cable must be longer than 5 m.
訳文: ケーブルは 5 m 以上でなければなりません。
must を一般の辞書で引くと「ねばならない」や「でなければならない」といった訳語が載っています。もちろん意味としてはこれで正しいのですが、翻訳においては、特にマニュアルなどの翻訳においては、もっと自然な日本語になるように訳すべきだと思います。
must を自然な日本語に訳すコツは、must が使われている文章を人目線で見てみることです。つまり、物が主語になっている文章を、人間の行為として捉えるということです。must には命令の意味があります。must を使った文章を命令文と考えると、人間の行為と捉えることができます。例 1 の英文 This file must be copied to the abc folder. は、Copy this file to the abc folder. という命令文の受動態であると考えられます。これであれば、「〜してください」や「〜します」という自然な日本語に簡単に訳すことでができます。
例 1
原文: This file must be copied to the abc folder.
訳例: このファイルを abc フォルダにコピーしてください。
訳例: このファイルを abc フォルダにコピーします。
例 1 の英文は、You must copy this file to abc folder の受動態だと考えられるので、人目線の文章にすることはそれほど難しくありません。それでは、例 2 や例 3 はどうでしょうか。The parameter value must be between 1 and 999. は受動態の文章ではないため、命令文に書き換えることはできないと思う人がいるかもしれません。確かに文法的には命令文には変換できないのですが、意味的には人目線でとらえることができます。「パラメータは 1 〜 999 の値でなければならない」を人目線で捉えるとどうなるかを考えてみてください。
例 2
原文: The parameter value must be between 1 and 999.
訳例: パラメータには、1 〜 999 の値を指定してください(します)。
「パラメータは 1 〜 999 の値でなければならない」を人間の行為として捉えると、「(ユーザーは)、パラメータに 1 〜 999 の値を指定しろ(= You must specify a parameter value between 1 and 999. → Specify a parmeter value between 1 and 999. )」となります。
ほかの文章も、同じように考えて人目線の文章にしてやると、日本語として自然になります。
例 3
原文: The cable must be longer than 5 m.
訳例 1: ケーブルは、5 m 以上のものを使用してください(します)。
訳例 2: ケーブルは、5 m 以上のものを接続してください(します)。
例 4
原文: The software must support Windows 7.
訳例 1: ソフトウェアは、Windows 7 をサポートしているものを使用してください。
訳例 2: ソフトウェアは、Windows 7 をサポートしているものを購入してください。
例 5
原文: The room must be larger than ....
訳例 1: 〜 よりも広い部屋を用意してください。
訳例 2: 〜 よりも広い部屋を確保してください。
例 5
原文: The filename must not include any double-byte characters.
訳例: ファイル名には、全角文字を使用しないでください。
ポイントは太字で示した日本語です。その文脈に適した日本語を見つけることさえできれば、must を人間目線で訳すことは難しくないと思います。
もちろん、文脈によっては、人間の行為と捉えることができない場合や、人目線で訳すと不自然な訳文になってしまうケースもあります。そのような場合は、「〜 でなければなりません」ではなく、「〜 である必要があります」とするとよいでしょう。
例 1
原文: This file must be copied to the abc folder.
訳文: このファイルが abc フォルダにコピーされている必要があります。
例 2
原文: The parameter value must be between 1 and 999.
訳例 1: パラメータは 1 〜 999 の値である必要があります。
訳例 2: パラメータには、1 〜 999 の値が指定されている必要があります
例 3
原文: The cable must be longer than 5 m.
訳例 1: ケーブルは、5 m 以上のものである必要があります。
訳例 2: 5 m 以上のケーブルが接続されている必要があります。
must を常に人目線で訳すことを意識していると、日本語から英語に訳す際に、must を使った英語らしい英語に訳すことできるようにもなります。
例 1
原文: 文書は、10 年間保管してください。
訳例: The document must be stored for 10 years.
例 2
原文: 報告書には、以下の情報を記載してください。
訳例: The report must contain the following information:
日英翻訳では、英日翻訳のときとは逆に、日本語の原文から、must を使った、物主体(物目線)の英文に訳せることが重要になります。
カテゴリー: 1. 訳語・表現・表記
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例 1
原文: This file must be copied to the abc folder.
訳文: このファイルが abc フォルダにコピーされていなければなりません。
例 2
原文: The parameter value must be between 1 and 999.
訳文: パラメータは 1 〜 999 の値でなければなりません。
例 3
原文: The cable must be longer than 5 m.
訳文: ケーブルは 5 m 以上でなければなりません。
must を一般の辞書で引くと「ねばならない」や「でなければならない」といった訳語が載っています。もちろん意味としてはこれで正しいのですが、翻訳においては、特にマニュアルなどの翻訳においては、もっと自然な日本語になるように訳すべきだと思います。
must を自然な日本語に訳すコツは、must が使われている文章を人目線で見てみることです。つまり、物が主語になっている文章を、人間の行為として捉えるということです。must には命令の意味があります。must を使った文章を命令文と考えると、人間の行為と捉えることができます。例 1 の英文 This file must be copied to the abc folder. は、Copy this file to the abc folder. という命令文の受動態であると考えられます。これであれば、「〜してください」や「〜します」という自然な日本語に簡単に訳すことでができます。
例 1
原文: This file must be copied to the abc folder.
訳例: このファイルを abc フォルダにコピーしてください。
訳例: このファイルを abc フォルダにコピーします。
例 1 の英文は、You must copy this file to abc folder の受動態だと考えられるので、人目線の文章にすることはそれほど難しくありません。それでは、例 2 や例 3 はどうでしょうか。The parameter value must be between 1 and 999. は受動態の文章ではないため、命令文に書き換えることはできないと思う人がいるかもしれません。確かに文法的には命令文には変換できないのですが、意味的には人目線でとらえることができます。「パラメータは 1 〜 999 の値でなければならない」を人目線で捉えるとどうなるかを考えてみてください。
例 2
原文: The parameter value must be between 1 and 999.
訳例: パラメータには、1 〜 999 の値を指定してください(します)。
「パラメータは 1 〜 999 の値でなければならない」を人間の行為として捉えると、「(ユーザーは)、パラメータに 1 〜 999 の値を指定しろ(= You must specify a parameter value between 1 and 999. → Specify a parmeter value between 1 and 999. )」となります。
ほかの文章も、同じように考えて人目線の文章にしてやると、日本語として自然になります。
例 3
原文: The cable must be longer than 5 m.
訳例 1: ケーブルは、5 m 以上のものを使用してください(します)。
訳例 2: ケーブルは、5 m 以上のものを接続してください(します)。
例 4
原文: The software must support Windows 7.
訳例 1: ソフトウェアは、Windows 7 をサポートしているものを使用してください。
訳例 2: ソフトウェアは、Windows 7 をサポートしているものを購入してください。
例 5
原文: The room must be larger than ....
訳例 1: 〜 よりも広い部屋を用意してください。
訳例 2: 〜 よりも広い部屋を確保してください。
例 5
原文: The filename must not include any double-byte characters.
訳例: ファイル名には、全角文字を使用しないでください。
ポイントは太字で示した日本語です。その文脈に適した日本語を見つけることさえできれば、must を人間目線で訳すことは難しくないと思います。
もちろん、文脈によっては、人間の行為と捉えることができない場合や、人目線で訳すと不自然な訳文になってしまうケースもあります。そのような場合は、「〜 でなければなりません」ではなく、「〜 である必要があります」とするとよいでしょう。
例 1
原文: This file must be copied to the abc folder.
訳文: このファイルが abc フォルダにコピーされている必要があります。
例 2
原文: The parameter value must be between 1 and 999.
訳例 1: パラメータは 1 〜 999 の値である必要があります。
訳例 2: パラメータには、1 〜 999 の値が指定されている必要があります
例 3
原文: The cable must be longer than 5 m.
訳例 1: ケーブルは、5 m 以上のものである必要があります。
訳例 2: 5 m 以上のケーブルが接続されている必要があります。
must を常に人目線で訳すことを意識していると、日本語から英語に訳す際に、must を使った英語らしい英語に訳すことできるようにもなります。
例 1
原文: 文書は、10 年間保管してください。
訳例: The document must be stored for 10 years.
例 2
原文: 報告書には、以下の情報を記載してください。
訳例: The report must contain the following information:
日英翻訳では、英日翻訳のときとは逆に、日本語の原文から、must を使った、物主体(物目線)の英文に訳せることが重要になります。
カテゴリー: 1. 訳語・表現・表記
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